11月23日、紀伊國屋書店新宿本店3階アカデミック・ラウンジにて、本学文学部日本文学科の大橋崇行准教授による講演会が開催。「落語、西洋に出会う。」というタイトルの下、西洋文化が落語に与えた影響や現代における落語の意義などが論じられた。当日の会場には学生、出版関係者など多くの人が足を運び、講演会はほぼ満席の状態で開始した。
落語と聞くと、おそらく多くの人は江戸時代を思い浮かべるのではないだろうか。江戸落語では「八っつぁん」や「与太郎」、「若旦那」など様式化されたキャラクターたちが登場し、日常に起きた些細な出来事が面白おかしく演じられる。しかし幕末・明治時代に入ると、落語のスタイルが変化したと大橋准教授は指摘する。
外国との交流が盛んになると、日本には西洋の学術や技術に加えて、ジュール・ヴェルヌをはじめとした文学が流入する。そうした西洋の文化から刺激を受ける時代の中、初代三遊亭圓朝は新たな試みを始めた。圓朝は、西洋の演劇や小説を落語に作り変えるという革新的なスタイルを確立。『錦の舞衣』ではヴィクトリアン・サルドゥの『ラ・トスカ』を原案として、ローマでの出来事を江戸に舞台を置き換えた。
作中人物や舞台を日本に置き換えて翻訳することを「豪傑訳」と呼ぶことがある。例としては、『シンデレラ』を翻案した坪内逍遥の『おしん物語』や、『モンテ・クリスト伯』を翻案した黒岩涙香の『巌窟王』などが挙げられる。西洋の文学や思想は、当時の日本人が消化するには長い時間がかかった。そのため、日本人は既存の文化に新しく入ってきたものを当てはめることで理解しようと試みた。結果的に、この試みが『錦の舞衣』を始めとした豪傑訳の誕生につながったといえる。
学習指導要領の変更に伴い、国語の時間に古典を読む時間は削減された。これからますます若年層の古典離れは激しくなるだろう。古典離れを止めるには、まず古典に興味を持ってもらう必要がある。最近では、平家の栄華を誇った様子とその没落を描いた『平家物語』のアニメ化が話題を呼んだ。アニメには「びわ」という未来を見ることができる少女が主人公として登場する。このように、古典の二次創作として現代風に置き換えることで、現代人が古典に興味を持つきっかけとなりえるのではないだろうか。
講演後のインタビューで大橋准教授は今後の落語に関して「古典を現代人にどう聞かせるかが重要だ」と指摘する。大学の落語研究会出身の若い噺家も活躍する中で、落語は時代に合わせたアップデートをしていく。(鈴木恭輔)
Comments